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最高裁判所第一小法廷 昭和52年(行ツ)16号 判決 1977年10月13日

上告人 向日町郵便局長

訴訟代理人 貞家克己 高橋正 玉田勝也 中村均 渕上勤 玉井博篤 ほか三名

被上告人 安田正志

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告指定代理人貞家克己、同伴喬之輔、同玉田勝也、同中村均、同渕上勤、同玉井博篤、同三木義人、同岡田茂、同高橋慶次の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができないものではなく、その過程に所論の違法はない。そして、右事実関係のもとにおいては、業務に支障があることを理由とした本件組合休暇の不許可が合理性を欠き違法なものであるとした原審の判断もまた正当として是認することができる。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の認定を争い、それを前提として原判決の違法をいうに帰し、すべて採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 岸上康夫 団藤重光 藤崎萬里)

(昭和五二年(行ツ)第一六号 上告人 向日町郵便局長)

上告指定代理人貞家克己、同伴喬之輔、同玉田勝也、同中村均、同渕上勤、同玉井博篤、同三木義人、同岡田茂、同高橋慶次の上告理由

郵政省就業規則二八条一項所定の組合休暇の付与基準に関する原判決の認定、判断には、その過程において採証法則及び経験法則に違背した違法がある。

一 組合休暇付与基準に関する原判決の判旨

1 本件訴訟の対象たる戒告処分は、被上告人が全逓信労働組合(以下「全逓」という。)近畿地方本部青年部常任委員会にその構成員として出席するため郵政省就業規則(昭和三六年公達第一六号。以下「就業規則」という。)二八条一項に基づき組合休暇(以下「本件組合休暇」という。)を申請したのに対し、上告人が業務支障を理由に不許可としたにもかかわらず、被上告人が勤務を欠いたため、上告人が被上告人に対して国家公務員法(以下「国公法」という。)八二条に基づいて行つたものである。

したがつて、本件戒告処分の適否については、本件組合休暇の不許可の適否が主要な争点となつているところ、原判決の確定するところによれば、就業規則二八条一項は、組合休暇につき、職員は組合の大会、会議等に出席する場合、あらかじめ組合休暇付与願を提出して所属長の許可を受けたときは勤務時間中であつても組合活動をすることができる旨規定し、右組合休暇の運用に関する昭和三九年郵人管第二六八号郵政省人事局長通達(以下「二六八号通達」という。)は、就業規則二八条一項所定の組合休暇付与の対象として取り扱う組合の会議として全国大会、中央委員会等一九種の会議を限定列挙しており、被上告人が本件組合休暇を申請した前記近畿地方本部青年部常任委員会は右一九種の会議の中に含まれるというのである。(原判決九丁裏末行から一〇丁表四行目まで、一二丁裏一一行目から一三丁表五行目まで、一九丁表七行目から末行まで)。

2 原判決は、本件組合休暇の不許可の適否を判断する前提として、就業規則二八条一項の組合休暇の付与基準について、要旨次のとおり判示している。

すなわち、原判決は、就業規則二八条一項は、業務の運営に支障のないことを組合休暇の許可条件として明記していないが、組合休暇制度の根拠となつた郵政省と全逓との間の「職員の組合活動に関する協約」(昭和二八年四月二五日締結)、旧就業規則(昭和二八年公達第六〇号)には右条件が明記されており、また、現行就業規則の解釈運用に関する昭和三六年郵人管第三八号人事部長通達(以下「三八号通達」という。)にも右条件が明記され、右条件の撤廃をめぐつて郵政省当局と全逓との間で争われているのであるから、業務支障の有無が組合休暇許否の条件として存在するものと解すべきであるが、郵政省当局と全逓との交渉の結果、両者の合意によつて、二六八号通達に限定列挙された一九種の会議に構成員として出席する場合はそれに必要な最少限度の日数については原則として組合休暇を付与すべきこととされ、組合休暇を付与された職員が一人休むことによつて通常生ずる程度の業務運行上の支障は受忍されるべき業務支障とし、回復が困難であるとか、回復に異常な期間を要するとかの特別な事態にない限り組合休暇付与の条件としての業務支障には当たらないとする取扱いをすることとされ、右合意の内容に沿つて組合休暇の付与が行われてきたものであると判示し、右合意の趣旨は就業規則の組合休暇の規定の内実として労働契約関係に充てんされているものと結論している(原判決一四丁表四行目から一五丁表一一行目まで。)

二 組合休暇付与基準の判断過程における原判決の採証法則及び経験法則違背

1 原判決は、右に述べたように、就業規則二八条一項の組合休暇の付与基準について、業務の運営に支障のないことがその要件であつたことを肯定しながら、二六八号通達の列挙している一九種の会議に出席するため組合休暇の申請があつた場合には、郵政省と全逓との間で組合休暇の不許可事由である業務上の支障の程度について、回復が困難であるとか、回復に異常な期間を要するとかの特別の事態にない限り業務上の支障とはしない旨の合意が成立し、右合意に沿つて組合休暇の運用がなされてきた旨認定しているのであるが、原審は、右の事実を直接的な証拠に基づいて認定しているのではなく、原判決理由第二の一において、まず、当事者間に争いのない事実と挙示の証拠とを総合して原判示(一)ないし(五)の諸事実(原判決一〇丁表一一行目から一三丁表末行まで)を認定した上、これらの認定事実に基づく推論によつて、郵政省と全逓間において前記のような合意が成立し、右合意に沿つて組合休暇の運用がなされてきた旨の事実認定を行つているのである。

しかし、原判決の認定した第二の一の(一)ないし(五)の事実中には右のような合意が成立したことを推認させるに足る事実は含まれていないばかりでなく右(一)ないし(五)の認定事実によれば、むしろそのような合意の成立していないことが推認されるものというべきであつて、この点において原判決は採証法則及び経験法則に違背するものである。

そして、右合意の成立が否定されるべきものとすれば、原判決の認定する右合意の内容に沿う運用の事実も当然に否定されるべきものであるが、更に、原判決の認定した第二の一の(一)ないし(五)の事実にも右運用の事実を直接推認させる事実は含まれていない。もつとも、第二の一の(五)において組合休暇の不許可事例がほとんどなかつたとの事実が認定されているが、右事実の認定は証拠に基づかないものであり、また、右事実だけから、直ちに前記合意の内容に沿う運用の事実を推認することは不可能であるから、原判決は運用の実態の認定においても採証法則及び経験法則に違背するものである。

以上の点につき、項を改めて順次詳述することとする。

2 業務上の支障に関する合意の成立について

(一) 原判決が第二の一の(一)ないし(四)において認定したところによれば、組合休暇制度は昭和二八年に締結された前記「職員の組合活動に関する協約」によつて認められ、旧就業規則に組み入れられたが、右制度においては組合休暇は所属長の許可によつて成立するものとされ、業務に差し支えがないことをもつて組合休暇の許可条件とされていた。そして、昭和三六年の全部改正後の現行就業規則においては、組合休暇の許可条件としての業務支障の文言が削除されたが、就業規則の解釈運用に関する三八号通達には同旨の文言が置かれており、就業規則が業務支障の文言を削除したのは組合休暇の許可条件としての業務支障の解釈運用を変更する趣旨のものではなく、現行就業規則の下においても、三八号通達に基づき、組合休暇請求者の所属する職場全体の業務について常勤職員による勤務の差し繰りによつて支障を生じない限り組合休暇を付与する運用がなされてきた。

しかし、組合休暇については、年次有給休暇と異なり、後補充要員を確保する措置を講じない運用がなされたため、組合休暇を付与した場合は業務上の支障を生ずることを避けることができないので、業務支障の程度と組合の組織、運営上必要な組合活動の必要性の程度とを考慮の上、組合休暇の付与基準を明確にする必要があり、郵政省と全逓との間で、組合休暇の対象となる組合活動の範囲を限定するという方法によつて組合休暇の付与基準を明確にするための交渉が行われ、昭和三七年五月ごろ、全国大会、中央委員会等一九種の会議に構成員として出席する場合を組合休暇付与の対象として取り扱うことで双方の了解が成立し、右了解事項を内容とする二六八号通達が発せられた。

しかし、右交渉において、全逓は業務支障の要件の撤廃を要求したが、当局の了解を得ることができなかつた。

原判決は、以上の認定事実から、前述したように、組合休暇付与の対象とされた一九種の会議については、業務支障の要件を業務支障の回復が困難であるとか、回復に異常な期間を要するとかの特別な事態に限定する旨の合意が成立したとの事実認定を導いているのである。

(二) しかしながら、原判決が第二の一の(一)ないし(四)おいて認定した事実中には、業務支障を特別事態に限定する旨の合意が成立したことを推認させる事実は含まれていない。

原判決が第二の一の(四)において認定しているところの、一九種の会議を組合休暇付与の対象とする旨の了解が成立するに至つた経緯について見ると、組合休暇については後補充要員措置を欠くので組合休暇の付与は業務上の支障を避けることができないこと(この点の原判決の判断が経験法則に反するものであることについては後述する。)が一機縁となつて、組合休暇付与基準を明確化するための交渉が行われ、一九種の会議が組合休暇付与の対象とされるに至つたが、業務支障の要件は撤廃されなかつたというのであるから、右交渉の結果は、組合休暇付与の対象とする組合活動の範囲については、一九種の会議とすることについて合意をみるとともに、業務支障に関する要件については、従前どおり業務支障の生じない場合に付与されるものであるとの当局側の方針が明確に示されたものということができるのである。

したがつて、右の経緯から見る限り、業務支障を特別事態に限定するとの合意が成立していないことは明らかであり、他に右合意の成立を推認せしめる事実は存在しない。

それにもかかわらず原審が前記のような合意が成立した事実を認定した背景には、組合休暇は後補充要員措置を欠いているので、組合休暇の付与は常に業務上の支障を生ずるものであるにもかかわらず、一九種の会議を組合休暇付与の対象とすることについて了解が成立したものである以上、右一九種の会議に出席する場合には、特別事態と認められるような業務支障はともかくとして、通常の業務支障は当局側において受忍するとの合意が当然に右了解の内容となつていると見るべきであるとの考えが潜んでいるのかもしれない。しかし、後に述べるように、組合休暇が後補充要員措置を欠いていることから直ちに組合休暇の付与が常に業務支障を生ずるとの原判決の前提が既に誤つているのであり、もし、後補充要員措置を欠くことのゆえに組合休暇の付与が常に業務上の支障を招来するものとすれば、後に詳述する組合休暇制度の趣旨、目的に照らして考えると、そもそも郵政省当局が右のような業務上の支障を招来することの確実な組合休暇制度をなぜ創設したかについて合理的な説明を施すことは、およそ不可能となるであろう。

したがつて、組合休暇について郵政省当局が後補充要員措置を講じていないのは、後補充要員措置を講じなくても業務上の支障を生じない場合があることを当然の前提とするものであると同時に、組合休暇はその本質からして後補充要員措置を講じてまで付与すべきものではなく、業務上の支障を生ずる場合には付与しないとの郵政省の態度を示しているものと解しなければならない。

また、一九種の会議を組合休暇付与の対象として認めながら、他方当局が業務支障の要件の撤廃を拒否したことは、一九種の会議に出席する場合であつても業務支障を生ずる場合には組合休暇を付与しない趣旨と解するのが合理的な意思解釈であり、後補充要員措置を講じていないことの一事から、一九種の会議に出席する場合には通常の業務支障は当局側において受忍する旨の合意が成立したものと解するのは合理的な根拠を欠くものというべきである。

3 組合休暇の運用の実態について

(一) 原判決は、第二の一の(五)において、組合休暇の実際の運用面においては、二六八号通達によつて組合休暇付与の対象として認められた一九種の会議に出席するための組合休暇が不許可となつた事例はほとんどなく、また不許可になつた事例についてもその大部分は当局と全逓本部との話合いで解決されてきたとの事実を認定しているが、右事実から、一九種の会議に出席するための組合休暇については、前述したような特別事態と認められるような業務支障を生じない限り、組合休暇を付与する運用がなされてきたとの判断を導くことはできないし、また、前述したように業務支障を特別事態の場合に限定する旨の合意の成立が認められない以上、右合意に沿うことを意図した組合休暇の運用はそもそもあり得ないものというべきである。

(二) そればかりでなく、原判決の一九種の会議に出席するための組合休暇が不許可となつた事例はほとんどなかつたとの事実認定自体、証拠に基づかないものである。

すなわち、原判決引用の証拠を検討すると、組合休暇の許可、不許可に関する実例について、一審証人高本康夫は、「昨年(昭和四七年-上告指定代理人注)の例で伺いますと、組合休暇を請求されて不許可になつた実例はどれぐらいありますか。」との問に対し、「本省として個々のケースを集約してませんので。」と答え、また、「過去に全逓の全国大会に出席するために組休を請求して許可されなかつたという実例を聞いていますか。」との問には、「全国大会ではあまりないんじやないでしようか。」と答え、更に、地方本部の大会に出席するために請求した組合休暇が不許可になつた例はあるかとの問に対しては、「一、二聞いております。」と答えている(昭和四八年一月一二日付け証人調書二四丁表一二行目から裏七行目まで)のであるが、組合休暇の現実の運用面では、業務支障を理由に組合休暇を不許可とされた場合には不許可の指示に従つて勤務に服している者が少なくないことも十分考え得るのであつて、そのような場合には、組合休暇の不許可が問題となつて表面に現れてくることはないのである。したがつて、高本証人の右証言は、郵政本省人事局の職員であつた高本証人が知り得た範囲の不許可事例、すなわち組合休暇の不許可が特に問題となつて郵政本省に上申されてきた事例が少なかつたことを述べたものにすぎないのであつて、右証言から全国的に組合休暇の不許可事例がほとんどなかつたことを認定することはできないのである。

また、一審証人城戸幸雄は、現実の問題として全国大会の代議員に選ばれて業務上の支障を理由に、組合休暇を不許可とされた例はなかつたと証言している(証人調書一二丁裏八ないし一〇行目)が、全国大会以外のすべての会議の出席について、業務支障を理由に組合休暇が不許可とされた例がなかつたとまで述べているわけではなく、同証人自身他の箇所では業務支障を理由に組合休暇を不許可とされた事例は、本件が初めてではなく、数は少ないがあると証言しているのである(証人調書一七丁表八行目から裏一〇行目まで)。

また、高本証人の証言について述べたように、組合休暇が業務支障を理由に不許可とされた場合であつても、職員が納得して勤務に就いたときは不許可の当否が後日問題となることはないのであるから、全逓中央本部役員である城戸証人としては、そのような場合の組合休暇の不許可事例まで知ることができないのである。

したがつて、城戸証人の右証言からは、城戸証人の知り得た範囲の不許可事例、すなわち、業務支障を理由とする組合休暇の不許可をめぐつて労使間に紛争が生じ、全逓中央本部に上申されてきた事例が少なかつたことを認め得るにとどまり、右の範囲を超えて全国的に組合休暇の不許可事例が少なかつたことまで認定することはできないのである。

右のとおりであるから、二六八号通達に明示されている一九種の会議に出席するための組合休暇について、業務支障を理由に不許可とされた事例がほとんどなかつたとする原判決の事実認定は採証法則、経験法則に違反するものである。

(三) 最後に、原判決は、前述したように、組合休暇については後補充要員措置を講じていないので、組合休暇を付与した場合には業務支障を避けることができないとの判断を示しているが、右判断は郵政事業の事態を看過した非常識なものといわなければならない。

すなわち、郵便局における業務の正常な運営を左右する主要な要因は業務量と要員配置であるが、業務量は年間を通じて一定しているわけではなく、時期によつて大きな変動を示すものであり、配置職員についても、年次休暇、病気休暇、特別休暇取得者に変動があるとともに、その後補充あるいは繁忙期における業務量の拡大に対処するための非常勤職員の雇用にも難易がある。

このように、業務の正常な運営は業務量と配置職員数との関係によつて左右されるのであるが、一般的に言うならば、業務量の変動の幅は極めて大きいのに対し、要員配置は比較的弾力性に欠けるため、時期によつて配置職員の業務量に増減を生ずることになる。したがつて、業務の閑散な時期に組合休暇を付与することは業務の運行に支障を生じないのに対し、業務の繁忙な時期に組合休暇を付与することは業務の運行に支障を与える場合が多いと言えよう。また、職場全体の配置職員数の多寡によつて、組合休暇の付与が業務の運行に及ぼす影響も相対的となる。

以上のことは何びとにも自明の理であるにもかかわらず、原判決が後補充要員措置を講じていないことを唯一の理由として組合休暇の付与は当然に業務支障を生ずるものとしているのは明白な誤りであり、したがつて、原判決が右の認定を前提として、前記一九種の会議に出席するための組合休暇については通常の業務支障は当局側において受忍する旨の合意が成立したものと判断しているものとすれば、右判断もまた合理性を欠くとのそしりを免れないものというべきである。

三 組合休暇の付与基準に関する実質的考察

前項においては、原判決挙示の証拠からは、これを総合しても、また間接事実に基づく推論によつても、組合休暇の付与基準に関し郵政省当局と全逓との間に原判決説示のような内容の合意が成立し、これに基づき、組合休暇の付与が行われてきたとの事実を認定することは不可能であることを指摘した。

本項においては、組合休暇の付与基準を原判決挙示の証拠と関連づけつつ実質的に考察し、この点に関する原判決の判断が単なる証拠上の理由不備というにとどまらず、実質的にも極めて合理性を欠くものであることを明らかにする。

1 組合休暇の本質と付与基準

郵政省における組合休暇制度は、原判決の認定しているように、昭和二七年の公共企業体労働関係法(以下「公労法」という。)の改正により、昭和二八年一月一日以降同法が郵政省職員に適用されることとなり、同省職員によつて組織された労働組合に団体交渉権が認められる等その活動分野が拡大されたことに伴い、専従職員以外の職員が勤務時間中に組合大会等に構成員として出席することを可能にして、組合の組織、運営を円滑ならしめ、組合の権利の実質的な保障を与える目的をもつて、郵政省と全逓との間に締結された「職員の組合活動に関する協約」の中に協約上の制度として規定され、次いで就業規則に規定されて制度化されるに至つたものである。

この組合休暇制度は、改正前の公労法七条による専従休暇制度(昭和四〇年法律第六八号による公労法の一部改正により専従許可制度となる。)とともに、戦後我が国の労働組合の育成、助長策として採られたものであるが、その趣旨とするところは、専従休暇制度のみをもつてしては、組合の組織、運営、その他の組合活動に支障を生ずることが予想されるので、このような事態を救済するために、組合の生成発展に必要と認められる重要な組合活動について、無休の休暇を認めることとしたものである(一審証人高本康夫の昭和四七年八月二五日付け証人調書五丁表八行目から七丁裏一一行目まで参照)。

このように、組合休暇制度は労働組合に対する保護助長策として、法律に直接根拠を有することなく、使用者としての郵政省が専ら自己の不利益において認めたものであり、本来、使用者から独立して自己の負担において自主的に運営されるべき労働組合としては、使用者に対して右のごとき組合休暇制度の創設を権利として要求し得る筋合いのものではない。また、郵政職員は、一般職の国家公務員として、職務専念義務を負い(国公法一〇一条一項)、勤務時間中の組合活動を禁止されているのであるから、組合休暇制度を権利として要求し得るものでないことも明らかである。したがつて、組合休暇制度は憲法二八条の保障する勤労者の団結権に内在しあるいはそれから当然に派生するものと解することはできない(在籍専従制度に関する最高裁昭和四〇年七月一四日大法廷判決・民集一九巻五号一一九八ページ参照)。かかる趣旨において、組合休暇制度は通常便宜供与の一種であると解されているのである。

このように組合休暇制度の法的性格が便宜供与であるとするならば、組合休暇制度を設けるか否か、また、組合休暇制度を設けることとした場合に組合休暇の範囲、要件、手続をどのように定めるかは、使用者たる郵政省当局が任意に決定し得るところである。したがつて、就業規則二八条一項所定の組合休暇の付与基準の判断は、同項及びその解釈運用に関する通達等によつて表示された郵政省の付与基準に関する意思を解釈し、確定することにほかならない。

これに対し、原判決は、就業規則の定める組合休暇制度は「組合員の就労義務と団結権との衝突の妥協あるいは調和として」の制度であると述べているのであるが、右の見解が誤りであることは、上述したところから明らかであるといわなければならない。

2 組合休暇の付与基準

(一) 郵政事業を所掌する郵政省にとつて、業務の正常な運営を確保することは、その事業の公共性、公益性に照らし、至上の責務であるから、労働組合の育成のためとはいつても、業務の正常な運営を犠牲にしてまで組合休暇を便宜供与として認めるということは本来あり得ないところであり、また、そのようなことは公共性、公益性の強い郵政事業にとつては許されないところでもある。

したがつて、昭和二八年の「職員の組合活動に関する協約」及び旧就業規則は、いずれも組合休暇の要件として業務支障のないことを定めていたのであり、また、現行就業規則は、規定の文言上は右要件を明記していないけれども、右要件の存在を当然の前提としており、同規則の解釈運用に関する三八号通達は、右要件を記載して、このことを明らかにしているところである。

すなわち、三八号通達は、「第二八条から第三〇条までの関係」の第一項において、「所属長は職員から組合休暇付与願が提出され、業務に支障がないと認め、これを許可した場合……」と規定しているのであるが、右にいう「業務の支障の有無」とは、あくまでも業務量に対する要員配置、業務の繁閑並びに担当する業務の性質及び内容等の状況判断の中で、組合休暇を付与するとしてもなお正常な業務運行が確保し得るか否かを指すものであり、更に、正常な業務運行の確保とは、業務の目的、性質、関係法令等により定立されている業務運行工程が正常に作用している状態を意味するものである。

したがつて、組合休暇を付与することによつて、右業務運行工程に支障を与える場合とは、郵便事業について言えば、郵便物を差出人から名あて人に配達するまでの間の内務、外務作業の業務運行工程、すなわちいわゆる郵便ダイヤに支障を与えること(例えば、組合休暇によつて平常における郵便物の送達速度に支障を与えること等)を意味し、また、本件のような簡易生命保険事業について言えば、募集業務と集金業務が右事業を支える重要な業務として位置づけられ、内務作業と外務作業との相関関係の中で定立されている業務運行工程に支障を与えること(例えば、簡易生命保険契約によれば、当月分の保険料はその月の末日までに払い込むことになつているところ、組合休暇によつて翌月以降になることは、右運行工程に支障を与えることになる。)等を意味している。

右に述べたところが組合休暇許否の条件としての業務支障の有無の一般的基準であるが、更に、郵政省においては、組合休暇の円滑な運用を図るために、常在員の勤務の差し繰り(代替要員の確保)によつて右正常な業務運行を確保し得る場合には、業務支障がないものとして措置して差し支えない旨の指導をしてきており、各所属長はこの方針に基づき組合休暇制度を運用してきたのである(一審証人高本康夫の昭和四七年八月二五日付証人調書一六丁表一一行目から二〇丁裏二行目まで、昭和四八年一月一二日付け証人調書二一丁表一〇行目から二二丁表九行目まで参照。)

そして、この点につき、原判決も、組合休暇に伴う「業務支障の有無は、組休請求者の所属する職場全体の業務について、客観的に判断すべきものであり、常勤職員による勤務のさしくりが可能である限り、組休を付与するよう各所属長を指導し、組休制度の運用を図つてきた」(原判決一二丁表四行目から八行目まで)ことを認定しているのである。

このように組合休暇制度は、あくまでも業務の正常な運営を阻害しないことを条件として制度化され運用されてきたのであり、現在に至るまで右の運用は変更されていないのである。

したがつて、便宜供与としての組合休暇の付与基準として郵政省が組合に対して許容している組合休暇の範囲・条件は、右に述べた運用の内容において具体的に示されているものというべきである。

(二) これに対し、原判決は、前述したように、組合休暇の付与基準として、二六八号通達に列挙された一九種の会議に出席するための組合休暇については、業務支障を特別事態に限定する旨の合意が成立した旨認定しているのであるが、原判決の認定する右付与基準は、年次休暇の場合に比較しても著しく妥当性を欠くものであつて、このことは郵政省が右のような合意をすることはあり得ないことを示すものである。

すなわち、労働基準法(以下「労基法」という。)上の年次有給休暇(以下「年休」という。)における使用者の時季変更権の要件としての「事業の正常な運営を妨げる場合」(労基法三九条三項ただし書)の解釈については、その事業場の規模、年休請求権者の職場における配置、その担当する業務の内容及び性質、業務の繁閑、代行者の配置の難易、熟練の度合、時季を同じくして年休を指定した者の人数、当日の人員確保の必要並びに欠員補充の困難な事情等当該事業場における諸般の事情を総合検討した上で、個々の事案に応じて具体的に決せられるべきものとの一般に解されており(大阪地裁昭和三三年四月一〇日判決・労民集九巻二号二〇七ページ、仙台高裁昭和四一年五月一八日判決・判例時報四四六号一二ページ、熊本地裁八代支部昭和四五年一二月二三日判決・労民集二一巻六号一七二〇ページ等)、また非現業の一般職国家公務員の年次休暇については、国公法一〇六条に基づき制定された人事院規則一五-六第一項、「官庁執務時間並休暇ニ関スル件」(大正一一年閣令第六号)五項により、事務の繁閑を計つて与えることができるものと定められているところに従つて運用されているが、右休暇を与えるかどうかの判断は所属長の自由な裁量に任されている(東京地裁昭和五一年四月三〇日判決・訟務月報二二巻六号一六〇一ページ)ところである。更に、裁判所職員の休暇に関する規程(昭和二五年最高裁判所規程第一〇号)にいう「事務に支障」がある場合とは、当該裁判所職員が裁判所において課せられている日常の事務遂行に支障を生ずる場合を意味するものと解されているが、しかし、具体的に職員から年次休暇の申請があつた場合、これに承認を与えることが事務に支障があるかどうかは、一応裁判所当局の自由な裁量に任されているところであり、したがつてその申請不承認が著しく条理に反し不当でない限り、その申請拒否を違法とはなし難いものとされている(東京高裁昭和三五年九月二一日判決・行裁例集一一巻九号二七三三ページ)。

右に述べたように、公務員に対する年次休暇は、非現業、現業(労基法三九条三項)を問わず、それが法律によつて公務員に付与された権利的制度であるにもかかわらず、「業務支障」の要件につき右のように緩やかに解されているのに対し、労働者個人の勤務実績その他の属性とは全く無関係に、組合活動と職務との調整を目的とする一つの便法として編み出された便宜供与の一種に属する組合休暇の許可条件である業務支障の有無の基準について、右法律上の制度である年次休暇における要件よりも使用者側に不利益な要件を課するのは、著しく常識に反するものといわざるを得ない。

殊に、郵政事業は、極めて公共性、公益性の高い事業であり、その正常な運行が強く要請されているところであるから、その正常な運営を確保する責務を有している郵政当局が組合休暇について原判決の認定するようないわば自己拘束的な基準を設定するということはあり得ないところであり、また、原判決の認定するような基準は組合休暇の便宜供与としての法的性格とは相いれないものというべきである。

四 本件戒告処分の適法性

1 本件組合休暇不許可処分の経緯

被上告人の本件組合休暇付与願を不許可とするに至つた経緯は、原判決第二の二の(一)ないし(三)に認定されているとおりである(原判決一五丁表末行から二一丁表一〇行目まで)。

すなわち、これによれば、向日町郵便局貯金保険課は、郵便貯金関係と簡易生命保険関係の業務を担当しているが、このうち、被上告人が勤務する保険外務係は保険の募集業務と集金業務を担当し、その人事構成は、課長代理一名、主任二名、一般外務員八名であつたところ、一般外務員八名のうち三名が病気等により長期欠務していたので、臨時雇三名(後、更に一名)を採用し、右欠務者三名の担当区に補充していたが、これらの臨時雇はいずれも業務に不馴れで補充の実を十分あげることができず、本来募集業務に従事すべき主任二名をほとんど常態的に集金業務の援助に当てざるを得ない状態であつた。そして、保険料の集金業務は、契約者との集金協定日が月末に偏る関係上毎月二六日を頂点にして、以後末日まで連日業務量が多く、この時期が月間を通じて最も繁忙である。特に、二月は日数が平常月より少ないため、月末の業務量が二六日以降の短期日に集約され、その一日当たりの業務量は更に増加する。このような月末の繁忙期に、しかもそれでなくても三名の長欠者があり、その後補充要員である臨時雇が業務に不馴れなため業務運行が困難な時期において、被上告人は既に承認欠勤を得ていた二月二七日に続いて、同月二八日、二九日の両日につき組合休暇の申請をしてきたのであるが、上告人は、常在員の勤務の差し繰りについて検討の結果、被上告人担当の集金業務を他職員に補助させるとの前提で、被上告人に二月二九日の出勤を命ずれば、集金業務については、被上告人の二七日以降の集金業務の八割は消化することができ、保険課全体の業務運行については支障を来さないものと判断し、二八日については何とか被上告人の願い出どおり許可しようとの結論に達したので、二八日の組合休暇は許可することにし、二九日の組合休暇は不許可とする旨決定し、その旨被上告人に通知し、同月二九日の出勤を命じたのである。それにもかかわらず、被上告人は、二月二九日無断欠勤し、後記のとおり向日町郵便局保険課の正常な業務の運行を阻害したものである。

2 本件組合休暇不許可事由

組合休暇制度は、あくまでも当局によつて認められた恩恵的な便宜供与である以上、組合休暇の許否に当たつては、当局の設定した一般的基準及び常勤職員による勤務の差繰りが可能で、組合休暇請求者の所属する職場全体の業務に支障がないかどうかの運用基準に基づきこれが決せられるべきことは当然である。そして、被上告人の本件組合休暇請求時には、原判決の前記認定のとおり常勤職員による勤務の差し繰りが不可能で、被上告人に対し二月二九日についても組合休暇を付与すると、正常な業務の運行を確保し得ず、業務支障の生ずることが予測されたところから、上告人は右組合休暇を不許可として、被上告人に勤務を命じたものであつて、そこには何らの違法も存しないのである。

また、所属長が組合休暇の許否を決するに当たつて行う業務支障の有無の判断は、本件組合休暇が本来的には単なる便宜供与である以上、業務運行状況について通暁している所属長の自由裁量もしくは合理的な裁量にゆだねられているものというべく、右所属長の判断は十分尊重されるべきであり、それが著しく合理性に欠けるものでない限り、右判断に基づく組合休暇の許否の決定は適法なものとして処理されるべきである。そして、前記のとおり、本件組合休暇請求時においては、当時の要員配置状況、業務運行状況、月末繁忙の特殊事情等具体的な資料に照らせば、被上告人の願い出どおり二月二八日、二九日の両日とも組合休暇を付与すれば多大の業務支障が生ずることが十分予測されたのであるから、本件における上告人の業務支障の判断には合理性に欠けるところはないといわなければならない。

のみならず、被上告人は、二月二九日無断欠勤したことにより次のような業務支障を与えたものであり、このことは上告人の右判断が相当であつたことを示すものである。

すなわち、被上告人の欠務によつて生じた業務支障については原判決の認定によつて明らかなとおり、被上告人が担当していた二月の簡易生命保険の月間集金予定額は一三一万七〇〇〇円、要徴収原簿冊数は八四二冊であつたが、これに対する集金月計は一一〇万八七九五円で、差引き二〇万八二〇五円の未収金を生じ、その集金率は八割四分一厘にしか達せず(原判決二二丁表一〇行目から裏二行目まで)、業務運行工程上支障を与えたのみならず、これを向日町郵便局貯金保険課全体から見れば、同局全体の二月中の未収金合計は五二万九二六七円であり、その集金率は九割六分一厘であるのに対し、被上告人の集金率は同局全体のそれより一割二分低く、被上告人の欠務の結果、局全体の集金率は一審判決で認定されている従来の実績である月九割七分の集金率(一審判決書二一丁表一二行目)に比べて劣るという業務支障が招来されたのである。

3 本件戒告処分の適法性

以上のとおり、被上告人の本件組合休暇付与願を業務支障を理由に不許可として処分が違法なものであるということはできず、組合休暇を付与されないで欠勤しようとしている被上告人に対し発せられた上告人の出勤命令は適法であつて、これに従わず欠勤した被上告人の行為を公務員たる義務を怠つたとしてなされた本件戒告処分は適法である。

五 結論

以上のとおり本件戒告処分は適法なものであるにもかかわらず、原判決は、組合休暇の許可条件である業務支障の有無の判断基準につき、組合休暇を付与された職員が一人休むことによつて生ずる業務支障は受忍されるべきものとし、回復が困難あるいは回復に異常な期間を要するなどの特別な事態がない限り、業務支障には当たらないとの判断の下に、本件組合休暇不許可処分に伴う戒告処分を違法としたのであつて、組合休暇の付与基準に関する原判決の判断過程に存する経験法則及び採証法則違背は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れないものと思料する。

以上

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